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シュッと飛んできた、林檎を余裕で貫通できそうな長さの針が、彼の腕に刺さった。
先程はあんなにも動揺したのに、ヨシュアはそのことには全く驚かず、ゆっくりと飛んできた方に視線をやる。
「……遅かったじゃねーか」
ヨシュアはニヤリとニヒルに笑み、よろりとキリエの上から立ち上がる。
まだ記憶の余韻が残った彼は額に汗を滲ませている。
一方の、少年と対峙している青年――クレドは、その顔には抑え切れない怒りを滲ませ、刃物のような鋭い目でヨシュアを睨み付けていた。
クレドは激しい咳をしてボロボロと涙を零しているキリエを見て、ブチリと何かが切れた音を聞いた。
「殺す」
ベルトに付けられた鞘からシースナイフを抜き、クレドは電光石火の如くヨシュアに突っ込んでいった。
ヨシュアはこのどうしようもならないであろう状況に笑って、バタフライナイフを構えた。
もうヤケクソだった。
何故ホテルにいるはずのクレドがここにいるのか。
何をあんなに何かに頼ろうとしていたのか。
自分でクレドを始末すればいいだけだ。
ヨシュアにとって殺し合いなど恐怖の対象ではない。
自分が勝てばいいだけだ。
衝突した二つの刃物は金切り声を挙げた。
「よォ、わざわざ助けにきたってか?」
ヨシュアはバタフライナイフでシースナイフを弾き、距離を取る。
「あんなバカなガキ、クソの役にも立たなかったけどな」
いつものクレドならばどんな挑発を言われようが、どうでも良かったし耳もかさなかった。
しかしクレドも人間だ。
ただでさえ自分のいない時にキリエを連れ出され、傷付けられ、挑発され、冷静さを保てるはずもなかった。
普段ならば必ず敵なんて無視してキリエを第一に安全な場所に連れていってアフターケアをしたはずだ。
それがどうしたことか、クレドはまたヨシュアしか見えていないように突っ込んでいく。
ヨシュアはよくクレドと輩の乱闘を傍観していた。
だから彼の戦闘能力の高さも戦いに置いての冷静さも知っている。
「ハハハ! たかがオンナ一人に、ダッセェ!」
今のクレドになら勝てる。
冷静さを欠いた敵など、強敵ではない。
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