Crime ‐ 犯行 ‐

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 クレドが今まで生きてきたのは、キリエに生きて再会するため、護るためだった。  今まさにそれがこの少年によって壊されようとしている。  ヨシュアが自分を刺した瞬間に咄嗟に急所を外させて、ナイフも拳銃も封じるか。  いや、失敗したらキリエの命が保障できない。  いくつもの案が浮かんでは消え、浮かんでは消え、結局良い方法なんてものは一つもない。  キリエとヨシュアの距離は約10メートル。  まだまだ余裕の射程圏内だ。        ついにヨシュアがクレドの真正面まできた。   「フォレストであんだけビビられたテメェも、呆気ない最期だな」  ギラリと鈍く光る刃が、ピタリとクレドのやや左寄りの胸に当てられる。  いくら不死身のクレドでも、ここを突かれたら息絶える。 「まあ、オンナ一人も護れねェんだから、大して生きる価値ねーよ」    スッと振り上げられたナイフ。  狂気を孕んだ青い瞳。  覚悟を決めたアメジストの瞳。      キリエはもう体の苦しみないのに、そこから這いつくばったまま、動けなかった。  ただ、いつもいつも自分に優しく笑ってくれたクレドが殺されようとしているのを見ているだけだった。  クレドの言い付けを守らなかった自分のせいだと、いくらキリエでもわかった。  彼との約束を守っていればヨシュアと出会うこともなく、苦しい思いも、クレドが危険な目に遭うこともなかった。  彼女もまた、自分のせいでクレドが犠牲になるのだけは嫌だった。  クレドが犠牲になるくらいなら、自分が……本当は泣き虫なクレドを自分が――。  ――自分が、クレドを助けなければ。 「クレドにひどいことしないでぇえええっ!!」
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