第二章 Whisper ‐ 内緒話 ‐

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 危険な状況に晒されたクレドだったがもとよりヨシュアからの攻撃も受けず怪我もなかったので、どうともなかった。  キリエのことも家まで運んでこられたし、今マラソンをしてこいと言われてもできる。  けれどもキリエが危険な目に遭ってしまった。  そのことに自責していた。  確かに勝手に家から出て行ったのもヨシュアと接触したのもキリエだが、もっとちゃんとフォレストの環境を教え込んでいれば、先延ばしにせず昨夜に何があったのか聞き出していれば。  もっと自分がちゃんとしていればキリエがあんな目に遭うこともなかったのに、とクレドは一人考えて自己嫌悪した。  過ぎた事を悔いたところでどうしようもないのはわかっているが、悔いずにはいられないのだ。 「クレド……ごめんなさい。わたしが約束やぶったから、クレドもこわい目にあったんだよね……ごめんね」  ソファーに座るキリエは零れる涙を拭いながら、謝罪する。  本当はこんな泣いているキリエだって見たくない。   「もうクレドとの約束、やぶらないから……きらいにならないで」  まるで母親に叱られて泣いている子どものようだと思い、クレドはキリエの前にしゃがんで優しく頭を撫でた。 「キリエを嫌いになんかなるわけないよ。俺こそ、助けるのが遅くなってごめんな」  クレドはきっと何をしても怒らないで許してくれる、その考えが小さな頃からずっとキリエの中にあって、クレドが自分を嫌うはずがないと自信満々に思っていたが、さすがに今日ばかりは嫌われてしまうのではないかと咄嗟に頭に浮かんだ。  キリエはクレドに嫌われてしまったら、もう一人では立てないかもしれない。  そんな自覚は十分にあった。  キリエが泣きながら何度も首を横に振ると、クレドは困ったように笑い、小さな頭をまた撫でた。 「ここがどんなに危険な場所か。アイツがどんな奴なのか、全部話すよ」  濡れた翡翠がじっとアメジストを見詰める。 「……だから、キリエも自分のパンドラのこと、ちゃんと話して」 「うん……っ」
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