第二章 Whisper ‐ 内緒話 ‐

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 そしてクレドはこのフォレストがどういう町なのかを話した。  殺人や薬物使用、食糧や家を買えずに餓死や凍死する人々、普通に生活を送ることが困難になった住人達。  そんな、世の中の汚物を詰め込んでできたゴミ箱以外何でもない町。  二人が暮らしたガーネットとはまるで世界が違うのだと、クレドは話した。  キリエはそれを真面目に聞き、時折意味がわからなそうにしていたが、クレドが言いたいことはわかった。 「あの男も世界的に有名な盗賊団の若頭だ。人を殺すもの訳ない。一番関わらない方がいい」  ヨシュアのバックには常にトルガー盗賊団がいる。  以前クレドは山賊を一つ壊滅まで追い込んだが、その時は勢いがあったから偶々そうなっただけだ。  今トルガー盗賊団に襲われて、必ず勝てるとは思っていない。 「正直キリエには、あまり他人と関わりを持って欲しくない」  クレドはそういって自分が嫌になった。  確かにキリエの安全のために言っているはずなのに、自分一人が独占してここに閉じ込めておきたいだけなのではないか、そう思ってしまったからだ。 「わかった。クレドがいうなら、そうする」  しかし素直に頷くキリエに、クレドは後ろめたさで視線を逸らした。  彼女にとっての世界が自分だけならば、汚いものを見せず傷付くこともないのに。  そう考えるも恐らく彼女の世界にはクレド以外の人間も存在している。  キリエに恋愛感情ではないただの親愛だとしても時たま耳にする"ギル"という人間も、そこにいるのだ。    それでも今キリエを護れるのは自分だけなのだと、クレドは心の中で繰り返す。
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