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「ねえクレド。まだわたしがパンドラだってことは、言わない方がいい?」
ヨシュアにはバレちゃったかもしれないよ。と続けて、キリエは問う。
「ああ……そうだな……」
そこで少し考える。
キリエがパンドラであることをわざわざばらすこともないし、そう簡単には彼女を傷付けることはできないパンドラだ。
「いや、キリエが使いたい時に使えばいいよ」
「ほんと?」
「うん。今日みたいに俺がいないときに、危険な目に遭ったらちゃんと使って。キリエは自分を護ることを考えるんだ」
するとキリエは悲しそうな顔をして、目を伏せた。
その瞳がゆらゆらと泳いでる。
「……どうした?」
「……けど、わたし、また今日みたいに、だれかをいっぱい傷付けちゃうかもしれない」
フォレストでの生活で麻痺していた感覚が、ふと覚醒するような感じだった。
死と苦痛と隣りあわせの此処では、少しでも身の危険を感じたら吟味することもせずに相手を始末してしまう。
クレドもトーマもシャルレも。
自分に攻撃をしかけてこようものなら、確実に殺す。
此処にきて、ようやく一般人の意見を聞いた気がした。
「もうだれも傷付けたくないの。だって、だれかがいたい顔してたら、わたしもいたくなるよ」
キリエはギュッと心臓の辺りの服を掴んで、まるで自分が傷付けられたような顔をしていた。
「パンドラだって、上手につかえないし……わたしがつかったら大変なことになっちゃうかもしれないもん」
彼女は十分過ぎるほどに自分のパンドラに殺傷力があることを理解している。
そして誰かを傷付けることを何よりも嫌がっていた。
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