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キリエはどんぐり眼[マナコ]に涙を滲ませて泣いてしまわないように下唇を噛み締めた。
ここで泣いてしまっては更にヨシュアを苛立たせてしまうとわかったからだ。
そんな健気な心情にもちゃんと気付いているクレドは、その部屋へと一歩踏み出し、キリエの手を少し強引に引いた。
「え、クレド……?」
それに戸惑うキリエだが恐る恐る歩を進めた。
クレドがそのブーツで歩く度ギシリ、ギシリと軋む床。
「……」
クレドは無言のまま、ヨシュアが乗っている簡素なベッドまで歩いた。
一歩後ろにいるキリエはクレドの背を困ったように見上げる。
クレドに冷たく睨むように見下ろされ、ヨシュアは負けじと端正な顔を睨み上げた。
ガラハドの内に、キリエに心のない言葉を投げつけたことにクレドの堪忍袋の緒が切れ、殺し合いが始まるのかと焦燥が表れ始めた。
それでもクレドが約束を違えるはずはないと信じていた。
――けれども、嫌な予感は当たった。
クレドはキリエの手を放すと、思い切りヨシュアの鳩尾[ミゾオチ]を殴ったのだ。
ヨシュアは突然のことに一瞬呼吸を忘れ、声にならない呻き声を上げた。
背中と腹に有り得ないくらいの激痛が走り、目を見開く。
そしてクレドはまだ止まらない。
苦しそうに呻くヨシュアなど素知らぬ涼しい顔で、その首根っこ掴み、乱暴にベッドに俯かせた。
ヨシュアが反撃に移る間も余裕もないまま、クレドは腰辺りに乗っかり自分よりも太い両腕を背に拘束した。
この一連は3秒も経たない間に行われた。
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