第三章 Lad‐少年‐

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 あの事件の翌日、クレドはまた余計な仕事を増やしてしまう羽目になった。 「アンタねえ、客をすっぽかすんじゃないって、昔散々言ったわよね」 「……仕事の途中放棄は悪かったと思ってる」  クレドはアリエル男娼館の社長室で、呆れた顔をして自分を見るジュリナと対峙していた。 「でも俺にとってはキリエが第一優先事項だから、誰が何と言おうと、行いを改めるつもりはない」  謝る割に、強い眼差しでキッパリと言い切ってしまう辺り、全く反省はしていない様子だ。  今回は状況が状況なだけに怒れないが、少しくらいは反省して欲しいものだ。    聞き分けのいい所があるが、こういう頑固な部分もある。  最近は以前に増してそれが顕著になっているように思うジュリナである。  キリエがここへやってきてから、今まで見せなかったクレドの一面が次々と明らかになっていくのは、面白くもある。  昨日のクレドなんて、ジュリナからしてみれば傑作であった。  ジュリナが直接見たわけではないが。  何でも怒り心頭だった客が言うには、クレドと客がいる部屋のすぐ外の廊下から『ヨシュアがクレドの女と歩いていた』という会話がハッキリと聞こえてきたらしい。  お情けだと言わんばかりの一枚の薄い扉の向こうから。  そこからのクレドはもう電光石火の如くだったという。  客を押し退け、下着とズボンをはくと走りながら服を着ていったそうだ。  実に生で見てみたかったと、ジュリナは客が帰った後一人で大笑いした。
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