第三章 Lad‐少年‐

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 人形を見てからキリエを見ると、彼女は買ってくれるよねと言わんばかりに顔を輝かせている。  そういえば、とクレドは思い出す。  ガーネットにいた頃、キリエはいつもお気に入りのウサギの人形を抱えていた。  たまたまガーネットにあったものだったらしいのだが、それをキリエは大層気に入りいつも独占していたのだ。  フランツ家に引き取られる時も、院長先生たちのはからいでその人形を持っていった。  けれどもフランツ家からここへやってきた時にはそれを持ってこられなかったのだろう。 「ね、お願いクレド」  両手を合わせて見上げてくる様が誰が見ても愛くるしいが、クレドはあんなものをキリエに与えるわけにはいかなかった。 「うん。じゃあトーマに言っておくよ。スピカで買おうか」 「わたし、あそこのでいいよ?」  キリエは何故目の前にあるものを買わないのかがわからず、キョトンと小首を傾げた。 「だめ。キリエにもっと可愛いのあげたいからね」  その言葉を聞き、キリエは嬉しそうに顔を綻ばせ、少し間延びしたいい返事をした。 「じゃあ、またトーマからカタログもらうから、家で見ようか」 「うん見る! ありがとうクレド!」  ところでカタログってなあに?という質問で、まだ二人の会話は途切れそうになかった。
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