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その時、二人の視界に異様な光景が映った。
その店の前に一人の子どもと娼婦らしき女がいたのだ。
「坊や可愛いわね、お姉さんと遊ぼうよ」
誘うような甘ったるさを孕んだ声が、クレドの耳にしつこく纏わり付き不愉快そうに目を細めた。
誘われている子どもの方を見ると、フォレストでは決して見ないような身なりである。
大方客引きだろう。
「えっ、あの、ぼくは……っ」
心底困ったように両手を振り、チラチラと周囲を伺っている様は助けでも求めているようだ。
あの娼婦が何故こんな子どもに目を付けたのか、クレドにはわかった。
単純に高価な洋服を身に纏い、金を持っていそうだからだ。
崖っぷちの人間にとって、最早大人だろうが子どもだろうが関係ない。
金の有無がすべてなのだ。
「ほぉら、おいでよ。全然怖くないから。可愛がってあげる」
恐らくあまり意味がわかっていないのであろう子どもは、自分が何を言われているのかわからず、しかし妙に湿っぽい雰囲気に怯え目が潤んでいる。
何の間違いでこんなフォレストに来てしまったのかは知らないが、娼婦に捕まったのは気の毒だ。
しかし助ける義理もない、赤の他人のクレドはそれから目を逸らし、再び前を向いた。
繋いだ手を離すことなく、あの二人の横を通ろうとした時、彼の手を握る小さな手が強くなった。
「うわあっ!」
「きゃっ」
そして予想もしていなかったドンッという衝撃がクレドにふりかかった。
「ってえ……」
いきなりぶつかってきた影を落とすことなく、クレドは支えてみせたが多少痛かったのでムッと顔をしかめた。
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