第三章 Lad‐少年‐

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 腕には先ほどまで少し離れた位置にいたはずの子どもがいた。  彼自身も何が起こったのが全くわからず、混乱したようにキョロキョロと目を泳がせている。 「は……? なんなの、さっきの……っ」  そしてただ驚愕しているだけの娼婦は、キリエに目を向けた。 「おばさん、弱いものいじめしちゃダメなんだよ」  キリエは娼婦を睨み付け、静かにそう告げた。  強く握る手はまるで彼女の怒りを表しているようだ。  何故今クレドの腕にあの子どもがいるのか、それはキリエが恐らく念力のパンドラを使ってこちらに引き寄せたのだろう。  彼女は昔から人一倍泣き虫なくせに、人一倍正義感が強いのだ。  突然の出来事にただただ茫然としている娼婦は、キリエの言葉に右眉を跳ね上がらせたが、すぐに気味悪がるような表情をした。  そしてグロスで妖しく光る唇を開いた。  娼婦が次に何を言うのか、クレドは嫌でもわかってしまった。 「子ども相手に油売ってないで、早く仕事に戻ったらどうだ」  クレドは次の句を言わせないために、先手をうって言葉をかぶせた。  すると娼婦は少し驚いたような顔をしたが、ふっと鼻で嘲笑って 「は……そうね。バカバカしいし、そうするわ」  それだけ吐き捨て、踵を返した。
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