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自分の精神や肉体とキリエを天秤にかけるのなら、彼にとっての最優先はキリエだ。
あの日の約束は、何年経った今でも彼の中で鮮明に輝いている。
それがあるから、彼はこの貧困地区・フォレストでも生きていけるのだ。
ガーネットを出るまではただ純粋にキリエとの約束を守り、フランツ家に尋ねた時から約束は意地になり、フォレストに辿り着いた時には、それに縋り付くように執着していた。
「――じゃ……まいど」
女から5万カイルが入った封筒を受け取ると、早々と部屋から出ようとする。
「えー? もう行くのー? もうちょっと居てよ」
女は慌ててベッドから出ると脱ぎ捨てた洋服を着ようとした。
「いや、次も詰まってるから。悪いな」
クレドは軽く笑って誘いを断ると、このホテルを後にした。
まだ昼間でこれから自宅で眠るまでの間、後4人の相手をしなければならない。
以前のクレドならば、それに強烈なストレスを感じ、エスケープにでも走っていただろうが、肉体と共に成長した精神のおかげで汚い仕事にも慣れた。
身体に纏わり付いた女の香水を落とす為に、彼は日頃からよく通う万屋[ヨロズヤ]とも呼べる店・【スピカ】に向かった。
アリエルが経営するこのホテルには、無料では風呂は付いてこないのだ。
スピカで彼を出迎えたのは、フォレスト1の遊び人でも有名な色男のトーマである。
店の扉を開けると、まるで外と店内が別空間のように思える程、スピカは綺麗な店だ。
トーマはデスクに頬杖をつき、クレドを見てニヤリと口角を上げた。
「やあ。昨日振りだね。使うといいよ」
トーマは金色の綺麗な髪の毛を軽く触りながら、店の奥へ視線を送った。
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