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「さあ? ただ、若い女だとさ。お前の恋人にでもなったと勘違いした、可哀想な阿婆擦[アバズ]れなんじゃない?」
噂でしか聞いたことのない女を嘲笑するトーマの話に、クレドは更にどうでも良くなる。
女を寝取られた腹いせに自分の命を狙う輩ならば、注意して早急に対処しなければならないと思ったが、たかが女。
恐らく以前仕事で抱いた女の一人だろう。
それならば襲ってきたとしても問題ない。
武器を使わずとも始末できる。
彼は彼女に会うまで死ぬわけにはいかないのだ。
この汚い色を売る仕事は、勘違いをした女や、女性客の男に襲撃されることが多い。
初めて襲われた時はガムシャラで逃げたが、今となっては自分一人で対処できるようになった。
シースナイフの鞘[サヤ]を常にベルトに付けているから、いざとなれは相手を仕留めることができる。
このナイフもスピカで購入したものだ。
「殺されないように気をつけて」
トーマはニッコリと笑うとクレドに手を振り、クレドはそれを受け取ると背を向けて店から出た。
いつ命の危険があるかもわからない町で、何も持たずに呑気に歩けるはずもない。
現に女に刺されそうになったこともある。
警戒心の強いクレドは周囲の気配に敏感にもなった。
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