19人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
昔から器用だったこともあり、少し練習してみれば上達していったのだ。
幼い頃キリエの好物だった卵料理と、簡単なスープが出来上がった頃、風呂場から彼女が出て来た。
キリエは長い髪の毛からボタボタと垂れる雫を気にも留めず、嬉しそうにクレドの下へと駆けた。
彼の服は彼女には大分サイズが大きかったようで、Tシャツがワンピースのようになってしまっている。
「キリエ、タオル貸して」
そしてすっかり兄気分に戻った彼は、妹分の彼女の頭を、優しくタオルで拭いてやる。
「お腹空いたよ……髪、あとでいい?」
チラリと可愛らしく見上げてくる小さな思い人に、頬が緩む。
「駄目だよ。風邪引いたら辛いだろ」
「はぁーい……」
髪の毛を雫が垂れない程度に拭き終わると、キリエは椅子に座って勢い良く並んだ料理を食べ始めた。
これは好きなやつだとか、久しぶりだとか、おいしいだとか、いろんな感想を言いながら食べる。
昔と変わらない落ち着きの無さは健在だ。
まるで兄のように優しげな眼差しでその様子を見ているクレド。
ただ少し、気になることがあった。
箸、スプーン、フォークが並べてある中で、キリエはスプーンとフォークしか使わず、箸には手を付けなかった。
通常箸で食べるものだってあるのに、それすらもスプーンで掬って食べていたのだ。
箸に持ち変えるのが面倒臭いからそうしただけだろうかと、クレドは少し考える。
最初のコメントを投稿しよう!