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トーマはいつも座る椅子から立ち上がると、ゆっくりとクレドとキリエに近付いた。
キリエはギュッとクレドの服を掴む。
初対面の男を前に緊張しているのだ。
そっと顔を覗かせる彼女に、トーマはお得意の甘い微笑みを浮かべて彼女の目線に合わせて屈む。
「初めまして。俺はトーマ。ここの店長だよ、よろしくね」
「キリエです……よろしくおねがいします」
恥ずかしそうに挨拶をするキリエを見て、トーマもまた父性を煽られたのか、思わずその小さな頭を撫でたい衝動に駆られた。
「可愛いね。想像してたよりずっと可愛い娘でビックリしたよ」
フォレスト1の遊び人の言葉に、クレドは右眉を跳ね上がらせ、トーマを睨み付けた。
もちろんキリエには見られないように。
"手を出したら容赦しない"と言われているようで、トーマは苦笑して軽く両手を挙げる。
「大丈夫だよ。君の大切な娘にはちょっかいなんて出さないよ」
「どうだか……」
クレドの仕事中、客と歩いていて偶然トーマに会う時がたまにあるのだが、その女性を気に入ればトーマは必ず口説き落とすのだ。
口下手でキリエ以外の女には滅法興味の無い彼よりも、構ってくれそうなトーマに流れる客は実際多かった。
何度それでキャンセルされたことか。
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