第一章 Fate - 運命 -

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 雪がちらちらと降っている。  真っ白で綺麗な、結晶。  とある世界の、とある国のアヴァリティア。  ワンドという街の中にある一軒の孤児院【ガーネット】。  幼い少女が鉛空に向かって両手をうんと伸ばす。  少女がつけている水色の手袋に雪が染みこみ、青い染みをつくる。 「クレド、雪きれいだね。食べたらおいしいかな」  傍らに立つ少年は小さく頷くが、降ってくる雪ではなく少女をじっと見ている。  寒さから頬が桃色で染まっていて、小さな唇からは白い息が漏れている。  可憐である。  幼いながらの可愛さが溢れていて、年相応の言動が更に可愛い。 「ねえキリエ、もう部屋に帰ろうか。また風邪をひいてしまうよ」 「いや。もっと遊びたいよ」  いやいやとプイっと顔を背けてしまうのを少し悲しく思いながらも、それよりも風邪から病み上がりな彼女を心配そうに。 「キリエは滅多に風邪なんて引かないよ。本当は1年に一度引くか引かないかなんだよ」  キリエは本当だよ、とクレドに言い訳をするように言う。  だが本当にキリエは滅多に風邪なんて引かない。  昨日に下がった熱は、本当にたまたまであった。 「でも帰ろう。ちょっと僕も寒いし…」  クレドの言葉にキリエはハッとなり、申し訳なさそうに眉を下げた。 「ごめんね…クレド。わがまま言って」  しかしキリエとは対照的に、クレドは体が生まれつき弱く病気がちだ。  3ヶ月に一度は必ず風邪を引くし、体力も無いから激しい運動も出来ない。  元気にはしゃぐキリエを何度羨望の眼差しで見たことか。  自分にはないものをたくさん持っているから、クレドにとってキリエは憧れの存在であり、幼心に持つ恋の対象であった。
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