19人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
信用できそうで、いまいち信用を置くに足りない胡散臭い商売人だ。
「今日はキリエちゃんの洋服買いかい?」
まるで彼氏の服を借りて着ている彼女のようだな、とトーマは色目でキリエを見る。
その視線に気付いたクレドは再度彼を睨む。
「睨まないでくれるかな、クレド。ほら、服を買うんだろう?」
トーマは微笑を絶やさず、二人を婦人服のコーナーに案内する。
当然フォレスト1の何でも屋であるスピカは、ジュニアからティーン、シニアの服まで揃っている。
「好きな服選んで良いよ」
クレドの言葉にパァっと笑顔を見せるキリエは、いそいそとハンガーに掛かった洋服何着も取り出しながら見極め出した。
洋服選びに夢中になるキリエを微笑ましく眺めながら、トーマはクレドの隣に並んだ。
「何キャラなの、クレド。何だい? さっき優しい言い方は」
出逢った当初でしか見られなかった優しさを見たトーマは、笑いを噛み締めたように震えた声で言う。
「うるさい。刺すぞ」
ベルトに掛かったナイフの柄に手を掛けたクレドに、トーマは困ったような笑みを浮かべる。
「君も一人の女の子相手を前には、優しさを取り戻すこともあるんだね」
出逢った当初、クレドは道端に野垂れる人を見放せず、それをトーマに窘[タシナ]められたことがあった。
『いちいちそんなのに構ってたら、キリないよ。放っておきな』
それが今やフォレスト内では恐れられ、綺麗だと憧れを持たれ、憎いと嫉妬の対象となったのだ。
あの何も知らないような純情な少年が、大切な物の為に数年でこうも黒く荒んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!