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自宅に着くと、キリエはすぐに風呂場に篭って悪戦苦闘しながら買ってきた服に着替えた。
まるでおもちゃを買ってもらった子どものように、鏡の前でくるくると回ってみたり、ニコリと微笑んでみたりする。
癖毛の髪を手櫛で梳かして、風呂場から出る。
「どうかなクレド。似合ってるかな」
クレドが選んだワンピースの裾で持って、披露してみせる。
それを見たクレドは穏やかに笑う。
「似合ってる、可愛いよ」
「ほんと?」
「本当」
キリエは嬉しそうに頬を緩ませ、少し硬いソファーに腰掛ける。
細い足をぷらぷらと動かし、落ち着きなく体をリズムに乗せたように左右に動かしている。
キリエは昔より更に綺麗になった。
けれどもその本質はまだ残ったままで、クレドが見抜くのは簡単だった。
しかしクレドは違う。
外見も背が高くなったし、昔よりはガッシリと逞しくなった。
中身だって変わっていないのはキリエを想う気持ちくらいだ。
面影なんてものはとっくに消え失せたのに、何故キリエはクレドをただ一目見ただけで見抜けたのだろうか。
彼にはそれが不思議でならなかった。
いや、不思議というよりも驚いたのかもしれない。
きっとガーネットの者が彼を見ても"クレド"であるとは気付かないだろうから。
キリエはソファーの上で、先程購入した物の包みをガサガサと開いている。
満足そうにそれらを眺めてはクレドに笑い掛ける。
もちろん微笑み返すクレドだが、彼にはどうしても彼女に訊かなくてはならないことがある。
もしかすると嫌がる質問をするかもしれない。
クレドはそんなキリエを想像しただけで胸が痛くなる。
けれどそれを訊く権利が、クレドにはあるはずだから。
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