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クレドは先程思い付いた料理を手際良く始めた。
第一の趣味を家事だと自負するだけはある。
トーマやジュリナに比べ大分根暗なクレドはこうしてインドアな趣味ばかりである。
シャルレは中々クレドに近い性格だが、どうもあの派手好き二人には付いていけない節がある。
夕食が出来た頃にはもうキリエは起きていて、布団に包まったままぼんやりと何もない壁を眺めていた。
起こしにきたクレドは背後からキリエの肩を軽く揺する。
「キリエ、夕食出来たよ」
「クレド……おはよう」
キリエはまだ少し眠そうな目を頑張って開いて彼を翡翠の瞳に写す。
そして極自然といった様子でクレドの首に腕を回すと、その頬にちゅっと唇を落とした。
そのことに驚き、何処で習ってきたんだと一瞬眉を寄せる。
「おはよう。よく寝ていたな」
しかしそんな顔を彼女に見せるなんて、彼にとっては以ての外だ。
瞬時に微笑み同じように頬にキスをする。
「一体何処で覚えてきたの、これ」
これと言われ、キリエは首を傾げるがすぐに"おはようのキス"のことだとわかり、「ふふっ」と笑った。
「あのね、昔にね、ギルがこうするんだよって、教えてくれたの」
彼女の口から出てきた男と思われる名前に、一瞬にして空気が重いものに変わった。
当然クレドの知らない名前である。自分と離れていた間に余計な虫だ付いたのか。
どす黒い感情が彼の中に湧き出て、どうしようもない嫉妬に苛まれる。
ギルと言う者がキリエにそんなことを教えたのかと思うと、不愉快極まりなかった。
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