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「……本当に? 無理してない?」
いくら慌ててキリエが否定しようがクレドが気付くのは当たり前で。
「うん、ホントだよ。わたしならちゃんとお留守番してるよ」
昔の彼女ならば"嫌なものは嫌"、"したくないものはしない"が当たり前で、こんなに聞き分けの良い返事はしなかった。
いい子のふりをしているのだろうか、そう考えてクレドはじっとこちらを見る翡翠の瞳を見返す。
「いいよ、無理しなくて。いくら家の中だからって、フォレストで一人は怖いに決まってる」
何処までも彼女を甘やかしたい彼は、虫歯が出来そうな甘い笑顔でそう言う。
キリエが自分と一緒にいたいと、そう願ってくれるならば傍にいたい。
ところがキリエはふるふると首を横に振る。
「お仕事たいへんなんでしょ。わたしなら大丈夫だよ。いい子で待ってるから」
「けど、」
「大丈夫! 家で大人しくしてる!」
さっきまでは不安そうにしていた癖に、次は頑として意見を譲らないようだ。
クレドは仕方なく溜め息をつき、「わかった」と頷く。
キリエが大丈夫だと言ってくれれば、クレドもクレドで仕事を消化できるから有り難いことではある。
もちろんキリエを一人にする限り心配ではあるが。
「ねえ、クレドは一体どんなお仕事してるの?」
クレドが"仕事"をしていることが物珍しいのか、キリエはキラキラと目を輝かせて問う。
一瞬だけ戸惑うも、クレドは笑ってキリエの髪の毛に指を絡ませる。
「秘密」
クレドが魅惑的に微笑むと、キリエは少し不満そうに口を尖らせた。
「ほら、早く食べな。冷めるよ」
その言葉にまたキリエはフォークを持つ手を動かし始めた。
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