Little gir l‐ 幼女 ‐

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 しかしせっかく読み終えたというのに、どうもキリエの表情は晴れなかった。 「なんで、あかずきんちゃんも、おばあさんも死んじゃったの? 物語なのに、悲しい終わり方だったね」  赤頭巾の話の内容は地方によって異なる。  赤頭巾と老婆が狩人に救出されて助かる話もあれば、ただ狼に食べられて終わってしまうというバッドエンドもあるのだ。  キリエが読んでもらったのは、後者である。 「あのね、実は赤頭巾ちゃんもおばあさんも助かる本もあるんだよ」 「そうなの?」 「うん。まあ、こういう童話は派生されたものが多いからね。探せばその本もきっとあるよ」 「はせい?」 「つまりね、元はひとつの物だったんだけど、誰かがその内容を変えて広めちゃったってこと。俺もどれがオリジナルかは知らないんだけどね」  へえーと相槌を付き、本はパラパラとめくると、ちょうど赤頭巾が狼に食べられる挿絵の所で止まった。  大してオチのない物語であった。  ただ食べられて、それで終わり。  不思議な本。 「……なんか、悲しい話だった」 「純粋だねーキリエちゃんは」  付けるはずの知識も教えてもらえずに育ったからか、彼女の感情もマッサラらしい。 「良かったら、赤頭巾ちゃんが助かる方の本を取り寄せてあげようか?」  トーマに手に入らない物なんて、ほとんどないのだ。 「ほんと? いいの?」 「いいよ。キリエちゃん歓迎のプレゼントにね」 「ありがとう!」  トーマは嬉しそうに笑うキリエを見て、クレドもこのくらい素直ならどんなに楽か、と思うがそんな彼は気持ち悪いと考えを改めた。  その後もキリエはその本をペラペラとめくり、時折トーマに「これ何て読むの?」と質問をした。
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