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日が落ちトーマが店番をする隣でクリームパンを頬張っていると、自動ドアが静かに開いた。
トーマが立ち上がるよりも先にキリエがスッと立ち上がって、嬉しそうに駆けていった。
「おかえりクレド! お仕事終わったの?」
「ただいま。終わったよ」
ここはお二人の家じゃないけどね、と頬杖をつきながら眺めるトーマはフッと笑う。
微笑ましいったらない光景だ。
クレドはいつも首に巻いているフード付き襟巻きを、より気にしているように首を隠している。
彼女には見せられない痕でも付けられたに違いない。
客にうんざりとする彼の顔がハッキリと思い浮かべられる。
ああ可哀想に。彼女は彼がどんな仕事をして帰ってきて、どんな手でその頭を撫でているかも知らない。
トーマはニコニコ笑いながら「バイバイ」と手を振るキリエと、一言の礼だけを言ってスピカから出ていく二人を見送る。
仲睦まじい2人の背中を見送るとトーマはパソコンを立ち上げ、【イーラ通販サイト】にアクセスした。
早速キリエに贈る"赤ずきんちゃん"の絵本を取り寄せる。
彼女の見た目は少し年齢より幼く見えるが中身はそれ以上に幼く、この歳で女性に絵本を贈るなんて想像していなかった。
それでも年下の面倒を見ることが好きなトーマは、頬を緩め購入確定のボタンを押した。
幼く愛らしい少女の為に。
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