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「……まさかソイツがスパイだったとはな」
少年は手にある煙草を押し付けてやろうかと考えたが、いちいち椅子から下りるのが面倒だから止めた。
横たわる女――彼女はトルガー盗賊団の一員で、“若”と呼ばれる少年の恋人だった。
半年程前に入団した彼女の素性は、トルガー盗賊団と敵対する盗賊団の一員だったのだ。
言うなればスパイで、トルガー盗賊団の情報収集のためにやってきて、少年と恋人関係にまでなった。
「チッ……うっぜぇなァ」
少年は心底不愉快そうに彼女に群がる男共から目を反らし、二階にある自室に行くため階段を上がっていった。
彼女を好きかと問われれば、好きだったのだろう。
けれども裏切られたと知れば、平気で制裁もできる程度の気持ちだったのだろう。
少年にとって彼女はその程度だった。
ガラハドはその日アジトには戻ってこなかった。
どうせ彼女を安全な場所に連れていったにちがいない。
そう思うと、少年は何故か無性にイライラしていた心が治まる気がしていた。
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