Pulled trigger ‐ 引き金 ‐

8/12
前へ
/155ページ
次へ
「……まさかソイツがスパイだったとはな」  少年は手にある煙草を押し付けてやろうかと考えたが、いちいち椅子から下りるのが面倒だから止めた。  横たわる女――彼女はトルガー盗賊団の一員で、“若”と呼ばれる少年の恋人だった。  半年程前に入団した彼女の素性は、トルガー盗賊団と敵対する盗賊団の一員だったのだ。  言うなればスパイで、トルガー盗賊団の情報収集のためにやってきて、少年と恋人関係にまでなった。 「チッ……うっぜぇなァ」  少年は心底不愉快そうに彼女に群がる男共から目を反らし、二階にある自室に行くため階段を上がっていった。  彼女を好きかと問われれば、好きだったのだろう。  けれども裏切られたと知れば、平気で制裁もできる程度の気持ちだったのだろう。  少年にとって彼女はその程度だった。  ガラハドはその日アジトには戻ってこなかった。  どうせ彼女を安全な場所に連れていったにちがいない。  そう思うと、少年は何故か無性にイライラしていた心が治まる気がしていた。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加