Behind ‐ 背後に ‐

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 早速とキリエはこの初めての留守番を無事に終わらせるべく、ソファーで絵本を読み始めた。  もちろんトーマに先日もらった“赤ずきん”である。  文字の発音を思い出しながら朗読し、わからない所は適当に読んだ。 「あかずきんちゃんは、そのとき、り、りょー、しゅさん?にたすけられ、」  たどたどしい朗読ながらも、着々と読み進め彼女なりに頑張ってはいた。  しかしいくら17歳であろうと、中身はそれには不相応で随分幼いのだ。  本読みは早々に飽き、次はベッドに寝転がり鼻歌を歌い出した。  キリエが昔、フランツ家の者に教えられた歌だ。  与えられた知識や常識はなかったが、何故か歌だけは教えられたのだ。  ある女性ヴォーカルのCDを何回も聞かせられ、耳だけで音楽と歌詞を覚えた。  歌だけがキリエにとっての勉強であり、唯一趣味と呼べるものだった。  当然歌詞の意味も知らないし、ジャンルもわからない。  それでもキリエはその歌を今まで何度も何度も口にした。 「……飽きた」  その歌を5回程歌うと、またそれにも飽きてしまい、次は部屋の中をウロウロし出した。  人より極度の飽き性は小さい頃からキリエの欠点であり、クレドや園長先生も悩まされたものだ。  スピカは万屋と言うだけあり、まだたくさんの興味を引かれるものがあったが、ここはクレドの家だ。  家具以外は何もない。  キョロキョロと部屋を見渡すと、キリエはあるものを見つけた。 「なんだろこれ」  チェス盤とそこにまばらに置かれた駒だ。
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