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クレドが急いで帰宅したのはもうすっかり月が顔を出した時間であった。
走って帰ってきたらしく、彼にしては珍しく息を切らして肩で呼吸をしていた。
「ただいま、キリ」
しかしパッと顔を上げた時、クレドはぽかんと目を見開いた。
脱ぎかけた黒のブーツをそのままに横の壁に手をついた。
「キリエ、何してるの」
「あ、おかえりなさい!」
キリエはクレドを見るなりにパアッと笑顔になり、しゃがみこんだ体勢からすぐに立ち上がって、彼へと駆け寄った。
そしてその勢いのまま自分よりも幾分大きな体に飛び付いて頬を摺り寄せる。
いつもなら頭を撫でたり頬にキスをしたりもするのだが、さすがのクレドも、キリエが何故今下着姿なのかが気になってそれどころではない。
詳しく言えば、キャミソールにパンツのみで髪の毛はビショビショだったのだ。
「風呂に入ったのか?」
「うん! 今から自分で髪の毛かわかそうとしたの」
クレドは見上げてくる彼女の顔から部屋へと視線を移す。
脱ぎ散らかされたパジャマに、コンセントがささったドライヤー、おまけに床はキリエのロングヘアーからボタボタと落ちたらしい水で濡れていた。
他にも食事を食べ終えた食器などがテーブルの上に数枚あったが、これはクレド自身がキリエにキッチンに近付くなと言ったからいいのだ。
「でもね、前にトーマにもらったパジャマの着方がわからなかったの。紐がいっぱいあるしきゅうくつだったよ」
先日トーマにパジャマをもらったとはしゃいでいた彼女を思い出し、クレドはああ、と頷く。
「じゃあ髪の毛乾かしたら着方教えてあげるよ」
そう言ったクレドに下心はなく、純粋に妹の世話を見る兄のような気持ちであった。
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