Behind ‐ 背後に ‐

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 そしてバタバタとこちらに帰ってくるなり、はしゃいで「かわいい?」とクレドに聞く。  慈愛に満ちた笑みで「可愛いよ」と返してやれば、また嬉しそうに笑った。  落ち着きのないキリエはソファーに勢いよく座る。  それを咎めるわけでもなく、クレドは彼女の隣に腰掛ける。 「今日は何もなかった?誰か来たりしたか?」  キリエは瞬時に待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせ「あのねあのね」と切り出したが、同時にヨシュアとの約束を思い出して慌てて口を噤んだ。 「どうかした?」 「う、ううんっ。やっぱりなんでもない」  わかりやすい程動揺したのを彼は見逃さない。  スッと目を細めると、キリエの顔を覗き込んだ。 「俺に内緒にするの?」  いつもより眉を下げ、物悲しげな表情をつくったクレド。  もちろん演技であるが、キリエにはそれが嘘には見えずに罪悪感が胸中におりた。   キリエは堪らずプイとそっぽを向いた。 「なにもないもん。本当だもん」 「じゃあなんでこっち見ないの」 「クレドがじっと見てくるから」 「いつも見てるよ?」 「今はいつもとちがうの! こっち見ないで!」 「イヤって言ったら?」 「トーマのところに行くもん」  ピシリと固まったクレドは珍しく困ったような表情になり、キリエの綺麗な髪に触れた。  すると今度はチラリとこちらに視線をよこした彼女が、途端に慌てたように口を開いた。 「な、泣かないで。わたしトーマのところには行かないよ」  泣かないでと言われたことに驚くも、クレドは自分の頬にそっと触れたその小さな手を受け入れる。  自分よりもずっと温かい手。  いわゆる“子供体温”だ。  久しぶりの体温に、クレドは目を伏せる。 「泣きそうに見えた? 泣かないよ」 「……昔、クレドが泣いちゃうまえと同じ顔してた」
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