Behind ‐ 背後に ‐

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 夜はいつものように二人同じベッドに潜り、体を向かい合わせて眠る。  キリエは時折寝言を言ったり、寝ぼけてクレドに体を擦り寄せたりとする。  ガーネットの頃のように戻れたと思う時は、本当にこの家にいる時だけだ。  外は彼女にとっての危険が多過ぎる。  例えトーマに軟禁生活だと言われようが、キリエを護るためならばクレドには関係なかった。  ここがガーネットのようにお金がなくとも安全で優しい場所であれば。  クレドは目の前にある寝顔をそっと一撫ですると、瞼を閉じた。  ――そして彼は夢を見た。  優しい場所、優しい時間、まだ周囲に護られていただけの二人の記憶。  クレドは夢を見ながらも、これが夢であると自覚はあったし、大分昔にあった実際のことだとわかった。  確かこの時も、今の二人のように、向かい合わせで眠っていた夜だった。  ただ一つ違ったのはキリエが涙で顔をぐじゃぐじゃに濡らしていたことだ。 『……ひっく……ぅ、ぅ』 『キリエ、泣かないで。先生たちにぬけだしたのがバレるよ』  それを慰めるのは当然ながらクレドで、困り果てたように泣きそうな顔をして、小さな頭を撫でたりして必死に宥めている。 『……っなんで、キリエには、ぇっく……ママとパパ、いないのぉ?』  水面のようにゆらゆら揺れる翡翠の瞳からは、ポロポロと、まるでガラス玉がこぼれ落ちているように見える。  まだ幼かったクレドにとっても、それは厳しい質問で、頭を撫でる手がピタリと止まってしまった。
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