Behind ‐ 背後に ‐

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 バレたら怒られる。  幼い自分たちの身の危険よりも、クレドはまず一番最初にそれを思った。  クレドはキリエの手首を掴み、ギュッと握る。 『ダメだよ。先生たちがしんぱいするよ。ね? もう寝よう』  クレドには外へ駆け出す勇気も意気地もない。  両親には会ってみたい。  けれども拒絶されたら?  自分を捨てた両親が、自分を歓迎するわけがないのだ。  クレドは幼いながらにそれらを悟っていた。  しかしキリエはいつもクレドとは正反対の意見や感覚を持っていた。  反対されたことが悲しくて、また泣き出しそうになったキリエだが、ふいとクレドに背を向けた。 『……じゃあいい。キリエはひとりでも、いくから』  思い切り振り払われた手。  キリエは布団から出てすぐ傍に置いてあったウサギの人形を腕に抱いて立ち上がった。 『ひとりで?』  キリエはこの部屋に眠る少年達の間を縫うように歩き、玄関にある自分のブーツを持った。  そしてまたクレドの方に向かって歩き、クレドの前を通り過ぎた。 『ま、待って……キリエダメだってば』  キリエはそこら辺のハンガーに掛けてあった他人のマフラーや手袋、上着を拝借する。  窓から出るつもりか、うんと背伸びをして鍵を開けようとしている。  しかし小柄なキリエには届かない位置にそれがあるのだ。  ホッとしたクレドを余所に、拗ねたように頬を膨らませたキリエが簡易組立椅子を運んできて、それによじ登った。  本気でここから出る気だ。 『待ってキリエっ』  クレドは慌てて布団から飛び出し、キリエの腕を掴んだ。
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