Behind ‐ 背後に ‐

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 そこで目を覚ましたクレドは、今まですっかり忘れ去っていた人物がいたことに目を見開く。  自分に擦り寄ってぐっすりと眠るキリエの体温を右腕に感じる。  外はまだまだ暗いみたいで、頑丈にできた分厚い窓ガラスには、月明かりが滲んでいた。  夢の中で見た男の手から放たれた氷のような光は、間違いなくパンドラを使った時に顕れるものだった。  幼い頃はそれが何であるかも知らなかったが、今となっては何であるかなんてわかりきったものだった。  あの時、彼と彼女はパンドラに助けられたのだ。  ただ黒いコートと氷色の光だけが手掛かりの人物に。  ただの通りすがりだろうかとクレドは考えるが、何となく違う気がした。  完全な勘ではあるものの、どうしてもそれをただの"通りすがり"や"偶然"で済ませるには何かが引っ掛かった。  とは考えた所で、彼等にはガーネット関係者以外に知人はいないため、何の証拠もないのだ。  しかし黒コートの男が誰か考える一方で、絶対に突き止めたいとも特に思わなかった。  だからクレドは隣のキリエをチラリと見遣ると、また瞼を閉じた。  翌朝、珍しくクレドよりも早く起きたキリエは、少し得意げになってユサユサと彼の体を揺さ振った。 「クレド、朝ですよ~。起きなさーい」  キリエはここへ来てクレドの寝顔を初めて見た。  彼はいつもキリエが眠るまで寝ることはないのだ。 「……ん」 「あーさーだーよー! ご飯つくってクレドー」  お腹空いたと騒ぎ、布団越しに強くクレドを叩くと、クレドは唸りながらゆっくりと目を開いた。
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