16 chapter 激情の紅

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西の魔女とは、西で生まれた呼び名であった。中央で暮らしていた頃、彼女は片割れである光帝の影でひっそりと生きていた。 その存在も、力も隠して。 だから誰も知らなかった。あれほどの化け物が存在していることに。知っていたのはそう、西の魔女の妹である彼女のみ。 「母上がこっちに嫁ぐ時、一緒についてきたって話だ。あの人が表立って動くようになったのもそれからだ」 「つまり何か?あの女の目的ってのは西でしか出来ないことなのか?」 「それは分からない。母上がそれに気付いていたのかさえ俺は知らない」 「・・・そういや、前国王と噂の王妃は今どこにいる?前王は病気で臥せってるって聞いたが、王妃は何してるんだ。あの人も十分な戦力・・・、」 戦力、だっただろう。 そう続けるはずのギルドマスターの言葉は喉の奥に飲み込まれる。 燃え上がる真紅に、熱が帯びた。それは触れてはいけないパンドラの。 冷たい、酷く静かな憎悪。 「確かに、父上は眠っている。あの日から、ずっと」 「ずっと・・・?」 「あの人の魔法で、あの日から一度も目を開けていない」 病気ではなく、西の魔女の魔法。 魔法なのか、はたまた別のものなのか。それは分からない。 前国王は、あの日より眠り続けている。
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