15079人が本棚に入れています
本棚に追加
「手は尽くした。でも、あの人に勝る術者はいない」
表情が抜け落ちたリトスは淡々と告げる。それとは裏腹に瞳だけは激情に揺れていた。
今この時も王の自室で眠り続ける彼の父。頼れるはずの存在はリトスの言葉も受け入れず。
リトスは1人で、戦うしかなかった。
「・・・なら、王妃様は?」
恐る恐るシーアは問う。
聞いてよいことなのか。リトスの顔を見れば一目瞭然。それでも聞かずにはいられなかった。すがるように。
落とされた言葉は、声は少し震えていた。
「・・・・・行方不明だ」
瞳に落ちる影は、諦め。
最善を尽くしたのだろう。今なお行方不明なのは。
「おそらく、生きてはいないだろうな」
誰の手によるものなのか。
誰もが予感していた。全てを狂わせた元凶。
あの日、王は眠りにつき、王妃はいなくなった。リトスは1人になり、今度はハズキがいなくなろうとしている。
連れていかれてしまった。西の魔女の手によって。
どんな目的で、何のために。それを知るのはたった1人。
もう、とリトスは呟いた。それはあの日誓った、かたい決意。
「もう誰も、失いたくない───」
リトスの瞳は、今も紅く燃えていた。
最初のコメントを投稿しよう!