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雨を避けるためにパーカーのフードを深く被っていたせいで、僕は前から歩いてくる人に気づかなかった。
肩がぶつかりフードをとると、二歳は下だろうか、あどけなさの残る、しかしくっきりとした目鼻立ちの女の子が
落とした鞄の中身を拾い集めている。
もうほとんど拾い終わっていたが、
僕も膝を曲げ、道に落ちた荷物を拾い
「ぶつかってしまってすみません」
と謝罪し彼女に渡した。
彼女は
「こちらこそ、すみません」
といい、足早に立ち去ろうとした。
思わずその後ろ姿に声を掛けたのは、話をして、連絡先でも聞けたらと思う下心もあったと思う。
彼女は振り向き、怪訝そうに
「何か。」と言った。
だが、僕は彼女の言葉に答えられなかった。
何故なら、出来心と少しの下心で声を掛けてしまっただけで、次の台詞など考えていなかったのである。
彼女は、何も言わない僕を頭から足先まで一瞥すると、足早に駆けていってしまった。
もう二度と逢うことがないはずだった彼女と僕が再会したのは、その雨の日の翌日だった。
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