愛のままにわがままに

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「……夢、か」 なんつう後味の悪い夢。 欲求不満か、俺は。 血に濡れたはずの右腕を確認しようと動かしかけて、その重みにふと気付いた。 愛しい人の、あどけない寝顔。 俺の身体に吸いつくように、左手がぴたりと胸板に添えられ、右腕はがっしり脇腹辺りに絡められている。 欲求不満は、コレのせいか。 人化の魔法をなんとか使いこなせるようになってからこっち、お嬢にせがまれてこうして人型のまま寝床を共にしている。 相変わらず、抱くには到らない。 理性が飛ぶ瞬間、俺は本来の黒猫の姿に戻る。 そして俺は見るのだ、お嬢の目の中に一瞬の揺らぎを。 異型種間の許されざる交わりに対する、ほんのわずかな嫌悪と罪悪感を。 決して俺からは手を出さないと、それに気付いた時に誓った。 身体を重ねなくても悦ばせてやることは出来る――、それをもし、お嬢が望むのならば。 肉体を超越した、心の繋がり。 望んでいたのも、求められたのもそれで。 こうして何もせずただ腕の中にお嬢を囲んでいられるだけで満足。 ――心は。 身体は、本能は、本心は全く別物。 背徳上等。 倫理などクソくらえだ。 なあ。 いつかお前がその良心をかなぐり捨ててしまえたら。 お前が俺を、俺の【全て】を求める時が来たら。 俺は迷わずお前を抱くよ。 来るかどうかも分からないその日のために人型を維持する鍛錬を積んでいることがバレたら、お嬢は俺のこと軽蔑するかな。 今は――、お嬢の覚悟が俺に追いつくまでは、これで満足。 俺の腕に頭を乗せ、身体を抱き枕にして眠っている無防備で幸せそうな寝顔を、この距離で見つめられるだけで、満足だ。
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