君と見た空

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『別れたよ』 そう話すと 翠ちゃんはゆっくり 毛布の端から顔を出した 僕を見る瞳は揺れて 何を言ったらいいのかわからない そんな顔 こんな状態の君に 言うべきかどうか悩んだけど あまりにもかたくなな翠ちゃんに 僕が我慢出来なくて いつまでも葉瑠ちゃんと付き合っているって 思われていたくなくて これを言ったところで 僕の自己満足でしかないのかもしれない 僕が葉瑠ちゃんと別れたって 佐々木と君の仲がどうこうなるなんて 思ってないし だけど 佐々木との仲がうまくいってるなら こんな事…言わなかった 佐々木には 翠ちゃんの他に想う相手がいる それが本当なら それを知った翠ちゃんがどうするのか 君がもし 佐々木との関係を続けるなら 僕にはどうすることも できないのだけど 全ては 自分を誤魔化した あの時の選択が 間違いだったんだから 『…なんか…あったんですか…?』 言葉を選ぶような 慎重な口振り 何も聞きたくない… そう言っていた君が 漸くここに来て 僕の見上げた 『…ん… あったといえばあったかな…』 『……何が…とか聞いても…?』 何が…ね 何か…の一つは わざわざ翠ちゃんに話す事じゃない 『ごめんね…内緒』 『…内緒…ですか あは…そう…ですよ…ね すみません…』 バツが悪そうに 目を逸らす彼女に チクリ…と胸が痛む 今の僕は君に こんな顔しか…させてあげられないんだね 『…今日はもう帰ろうか …送っていくよ』 終わった点滴を見上げて 腕の針を抜いてあげると 君は小さく頷いた 俯いたままの君が 今 どんな顔をしているのか 気になったけど …わからなかった ねぇ…翠ちゃん 君の気持ちが…知りたいよ
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