君と見た空

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鮎さんから借りた 学会のレポートに目を通してたら いつの間にか 医局には誰もいなくなっていて 窓の外も真っ暗 今週は夜勤が多かったし 山谷さんの店にもなかなか行けなかったから… 今夜は久々に一杯飲んで帰ろうかな… 取り合えず外科病棟に顔を出して 午後にオペをした患者の様子だけ見て… 後は夜勤に任せればいいから 『…帰ろ』 帰りにナースステーションを廻って夜勤の看護師を捕まえた 『オペした患者さん 特に…変わりない? 僕…帰るから 何かあったら 後は土谷さん呼んで』 用件だけを済ませて 僕の言葉を聞いた看護師があからさまに嫌な顔してた そりゃ…嫌だよね 土谷さん呼んで…なんてさ ただでさえ いつも眉間にシワを寄せてるのに 夜、叩き起こされたら どんなに機嫌が悪いか それが大した事なかった…なんて言ったら どんなに辺りが凍りつくか 簡単に想像できて可笑しいんだけど でも…仕方ないじゃない 一応当番なんだし 『何にもないことを祈ってるよ』 背中に 看護師の視線を一身に浴びながら 足早にその場を後にした …あー… 早く山谷さんの所行こう きっと… そろそろ待っててくれてるはずなんだ 『純、待ってたぞ』 って そんな 山谷さんの顔を思い浮かべながら 今夜は何を出してくれるのかな… 玄関を出ると 不意に吸い込んだ空気で 一気に身体が冷えてしまった気がする 早く…店に行こう… 『………………』 ……? なんか… 先の暗闇から… 人の…声…?
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