君と見た空

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『佐々木さん…っ!! ちょっと待ってください…っ!!』 急いで追いかけて コートの裾を掴むと 漸く歩を止めてくれた 『……ごめんな 今、見たこと…忘れて』 『………… …無理です……』 『……………』 『…佐々木さん あの人が…幼馴染みの彼女さんですか…?』 『…っ…お前…知って…?』 私が頷くと ゆっくり目を閉じた佐々木さんが 大きく息を吐いて… 前髪をかきあげた 『…んだよ…参ったな… ってことは…全部知ってんだな…』 『…はい…すみません』 『…あいつとは…別れたから』 『…でも…彼女…納得してないって… 佐々木さんだって本当は 一番大事なのは… 私じゃ…ないんですよね…?』 噛み締めた唇から見えた 佐々木さんの答え 『ほらっ… 行ってあげてください…っ 彼女…待ってますよ? 他の誰かになんて… 譲れないでしょう?』 『…っ…お前は…?』 『…私は…大丈夫です』 『…そうだな 結局…霧生を忘れさせてやるなんてこと… できなかったな』 『私も彼女を 忘れさせてあげられなかったです』 『…忘れさせてくれなくて… ありがとな』 『…なんですか…それ』 お互いがお互いの言葉に 笑い合う こんな状況なのに 不思議と… 心の中はスッキリしていて 掴んでいた佐々木さんのコートから手を離した 『早く行ってあげて下さい』 『…ああ…』 彼女の元に戻る佐々木さんを見送りながら 佐々木さんといた時間を ゆっくり…思い出す 佐々木さんの優しさに癒されながらも 私の中の 霧生さんへの気持ちが こんなにも大きいものだったって事 気付かされた… この先の事なんてわからないけど 決して…無駄じゃなかった そう…思う ふ…と空を見上げると 夜空に浮かぶ 細い細い三日月が 幻想的で なんでかな… 涙が…出たの 自分の気持ちから 逃げて…誤魔化して 随分回り道したけど 答えなんて…一つ 結局 私も…佐々木さんも 大事な人を忘れる事なんて… 最初から…できなかった
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