君と見た空

137/194
前へ
/194ページ
次へ
『霧生先生、お早いですね』 診察室に向かう途中 声を掛けてきた外科の看護師 『予定外の交代だったから 早めに来たんだ』 『そうでしたね …鮎川先生が 急なご用事で 霧生先生に代わられたって…』 『うん、だから今日は 少し楽させてよね』 『……あ… いえ…っ… 今日の休出担当は私じゃないですよ? 私は病棟応援です』 『…えっ…そうなの?』 こんな所で一緒になるから てっきり彼女が今日の担当かと思ったんだけど 彼女は頭を下げて 渡り廊下を曲がると 隣の病棟へ足早に消えていった そうか… まだ出勤には早い時間だったんだっけ じゃあ… 診察室にもまだ誰もいないかな 誰もいない そう思ってドアを開けたから 開けた瞬間 漂う珈琲の香りに あれ… もう…誰か来てる? 『…え…っ… あ…霧生…先生?』 『…翠ちゃん…? 君が今日の担当? 今日は休みじゃなかったの?』 『…いえ…っ… 先週休みすぎちゃったので… 他の看護師に代わって 出勤させて貰ったんです でも… 今日は鮎川先生のはずじゃ…?』 ……なんだ そういう事か 鮎さんの急な用事なんて只の口実 僕と翠ちゃんを …二人にさせる為の ほんと… 鮎さんらしいお節介だよね 『…鮎さん用事ができたからって 急遽僕が代わりに入る事になったんだ 今日は…よろしくね』 『…そうだったんですか はい、わかりました お願いします』 カタン…━ 僕のデスクに 置かれた珈琲 あ… 翠ちゃんが入れる珈琲の香りだ… 『ありがと』 ニッコリ笑った翠ちゃん その後… ………………… ………………… 僕達の間に 暫くの沈黙が続く 昨夜…抱き締めてしまった事 僕の脳裏を掠めるように 君の頭にも きっと過ってる… このまま黙ってるなんて… できないよね 『…昨日…行った…? 佐々木の所』 『…っ…』 案の定 君は瞳を見開いて でも 次の瞬間 君が ふっ…と…笑った
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3787人が本棚に入れています
本棚に追加