君と見た空

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『おはようございます、霧生先生』 いつもと同じように 診察室に入ってきて いつもと同じように 仕事の準備に掛かる翠ちゃん 同時に香る いつもと同じ珈琲の香り… 『具合はどう? 動悸とか…ない?』 普段通りに動いてる彼女は とても…心臓病を患ってるように見えないのに 『今は大丈夫です 身体もいつもより軽いし… でも 今夜は両親が来る事になって 朝から掃除したりしてバタバタしちゃって ちょっと疲れちゃいました』 僕のカップをデスクに置いて トレイを抱えながら苦笑いを浮かべる 『ご両親が来るの?』 『はい… 病気の事話したら 今夜来るって言い出して… 精密検査の結果が出てからでもいいのに』 『ご両親も心配なんだよ 僕だって…』 翠ちゃんの手を取って指先にそっと唇を付ける 『ちょ…っ…先…生…』 くすぐったそうに 腕を引っ込めようとする君を 逆に引っ張って ポスッ… 僕の腕の中に納めた 朝の陽射しが差し込む窓から 肌寒い風が カーテンを揺らす 『…先生…?』 『…ん?』 『…私は大丈夫です 10年前に一度死にかけた身ですし 今まで生きて来られたのが奇跡だったのかも…しれません そのおかげで 霧生さんとも出会えて… 恋をして 十分幸せでしたから 』 ………!? …何…を…言い出すの…? 『もし… 私が…死んだら 私の事は忘れて下さいね そのかわり… 私が生きてるうちは…っ 私だけを愛して…?』 君は 今にも溢れそうな涙を 瞳に溜めて 僕を見詰めて …笑った 君は…もう 死を…覚悟してる でも バカだね… そんな勝手な事 僕が許すとでも思ってるの?
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