君と見た空

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漸く仕事が終わった 僕は 帰り支度を調えて そのまま翠ちゃんの病室へ向かう 検査が立て込んでたみたいだし… 体調が悪化してなければいいんだけど… 人気も少なくなった廊下を歩きながら 自然に歩く歩も早まる 病室の前に着いて ドアを開けようとすると 同時にドアが開いて ………あ… 翠ちゃんの母親が 部屋から出てきた 『…あら…霧生先生 お仕事終わりました? 翠…今、やっと寝た所なんです どうぞ…中に入ってて下さい 私はこれ…活けてきますから』 これ…と 両手に抱えた花を見せて 部屋のドアを開けてくれた 『…ありがとうございます 翠ちゃん、変わりありませんでしたか?』 『…ええ… 検査の薬のせいでしょうか… 少し吐き気がする…と言っていましたが 今は大分楽になったみたいです』 と 部屋の中の彼女を見ながら小さくため息を付いて 『…翠の側にいてやってください 先生がいてくださるのが あの子には一番いいと思うので…』 少しだけ笑みを浮かべる その表情から 色んな思いが伝わってくるようで …堪らなくなる 母親に軽く頭を下げて 部屋に入ると ベットの中で スウスウ…と寝息を立てる翠ちゃん いくつも検査を受けて疲れたからかな… 顔色もよくない 顔に掛かった髪を そっと払ってあげると 少し違和感を感じたのか ゆっくり寝返りをうって …また…寝息を立て始めた 彼女の横に座りながら 力を失った手をとって… 静かな時間が過ぎていく 今は寝かせてあげたいのに このまま目を覚まさなかったら… なんて 言い知れぬ不安が 僕の中に渦巻いて 思わず起こしそうになってしまう 諦めない 君と約束したんだ だから 僕がこんな気持ちになってちゃいけないのはわかってる わかってるけど…っ… 翠ちゃん… 僕は 君を失うかもしれない現実が… …怖いよ
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