君と見た空

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自宅に向かうはずだった角の道を 逆方向に歩くと ここからすぐの こじんまりした居酒屋 ここのマスターは 山谷さんって言って 僕の親代わりと言っていいくらい お世話になってる人 遠藤君が当直の時とかは 必ずここで食事をする 僕の第2の自宅 『…山谷さん…? 鮎さん来てます?』 店の暖簾を潜ると いつものカウンターから 威勢のいい声が出迎えてくれた 『おっ…純か!! 鮎川くんなら先に来てるぞ? 鮎川君、純が来たんだが… カウンターでいいかい?』 なんだ… すでに奥のカウンターで 飲み始めているじゃない 山谷さんが声をかけると お銚子を手に軽く片手を上げて 『おっ…きたきた 山谷さん、お猪口もう一つくれるか?』 なんて なに…? もうこんなに飲んだの? 隣に座って 改めてカウンターを見ると 空いたお銚子が三本… 『…鮎さん… 上がり時間って… 僕と同じじゃなかった?』 『ああ…、そうだけどな 俺はお前が翠んとこに行って チョッカイ出してる間に さっさと帰ってきたから その分の時間だな』 その分って… せいぜい十五分くらいだったはず 一本五分のペースじゃない 『…次の定期検診 γが上がっても知りませんよ? 川崎くんに検査結果を細かくチェックされて 南さんに厳しく指導受ける事になりますよ? まぁ…僕は 膵炎になって取り返しのつかなくなった鮎さんのお腹、バッサリ切るだけですけど わあ…楽しみだなぁ』 『…純…お前 ほんっとにいい性格してるぜ…』 『…冗談ですって 僕がこの店の営業妨害になるような事 言うはずないじゃないですか 僕にも一杯くださいよ』 『お前のは冗談に聞こえねぇんだよ…』 傾けたお銚子から トクトク…といい音を響かせて 並々注がれた日本酒を 一気に煽った カッ…と喉の奥が熱くなって 鼻にフワッとした香りが心地好い 『…で? 僕に話したいこと …あるんでしょ?』 酒を注ぎながら 鮎さんの顔を覗き込むと ふっ…と頬を緩ませて 笑った 『…お前には敵わねーな』
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