君と見た空

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『…あら…霧生さんは? さっき部屋に入るの見えたんだけど… 来てたんじゃないの?』 着替えを取りに自宅へ戻っていた母が 部屋に入ってくるなり 首を傾げた 『うん、さっきまでいたんだけどね 今夜は他の先生達と出るから…って たまには親子水入らずもいいでしょ…だって』 ほんとは少しだけ 心配だったの 日勤でも夜勤明けでも 毎日来て ずっと一緒にいてくれて 嬉しかったけど 私の前では 一切疲れた顔…見せないから 『毎日…大丈夫ですか?』 って聞いても 『君の側が一番いいに決まってるじゃない』 なんて いつもの笑顔を見せられたら 【帰って休んでください】 なんて言えなくて 結局…霧生さんと離れたくなかった私の我が儘 だから 今夜はゆっくり 鮎川先生達と息抜きしてほしい 『…ね…お母さん』 『…ん?』 『…私って… 昔からほんとに心配ばっかりかけてたよね…』 【昔】を話し出した私に 母は一瞬顔を強張らせた でも その後…ふっ…って笑って 『…そうね… 心臓悪いくせに 運動が大好きで 病院が飽きたからって 勝手に抜け出したり そこで拾ってきた子猫を 勝手に病院に持ち込んで大騒ぎ…なんて事もあったわね それでも… 貴女はいつも笑っている子だったから お父さんも私も… どれだけ励まされたかわからない そんな貴女が 大きくなって …恋をして 今…一番幸せな時だったのに…っ…』 声を詰まらせながら 話す母 私は そんな母の手をそっと握り締めた この手は… 私を無償の愛情で包んでくれた手 『お母さん? 私は… 今も…これからも ずっと幸せだよ …命がなくなっても 私が幸せだった事実は 変わらない だから、もし… オペが成功しなくても 泣かないで? 私が幸せだった事 ちゃんと覚えていて?』 涙をぽろぽろ 頬に伝わせて 母は何度も頷いた
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