君と見た空

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午後イチの回診を終えて 急いで翠ちゃんの部屋に行ったのに 誰もいなくて その代わり ベットの上に紙切れが一枚 【屋上にいます】 もう… 一人で勝手に外に出るなんて また発作がでたら どうするつもりなのさ…っ だけど 行き先を見ると 君が その場所を選んだ理由 想いが…わかるから 怒る事もできなくて 仕方がないから 急いで屋上まで来てみたら 君は 屋上の柵に体をあずけて 一人…空を見上げていた 『…翠ちゃん?』 声を掛けると 君は驚いて振り向いて 次の瞬間…ふわり…と 笑顔を浮かべ 『霧生さん…』 『…どうしたの? こんな所で 寒くない…?』 来ていた白衣を肩に掛けてあげると 君は幸せそうにくるまって 『…ふふっ… 霧生さんの匂い…』 嬉しそうに頬を寄せる 『…空をね… 見ていたんです ほら…っ…雲一つない 真っ青な空』 彼女が指を指す先には 確かに真っ青な 雲一つない空 昨夜の雨で浄化されたのか 空気も驚くほど澄んでいて 時折 頬を掠める程度の爽やかな風が吹く 『こんな気持ちがいい日 そうないんじゃないかな』 『でしょう!? 良かった… 今日ここで こんな幸せな気持ちになれて…』 ふ…っと笑みを見せた後 一瞬見せた泣き顔を 君はすぐ 隠すように顔を逸らした 今日… まるでこの先がないような言い方 心の奥で 覚悟を決めている そんな…言い方 『翠ちゃん』 『…はい』 唇を噛み締めて 精一杯涙を堪えた顔で 僕を見上げる翠ちゃん 本当は泣きたい程不安なくせに 君はいつだって そうやって僕を誤魔化そうとするんだ そんな君の事 僕が気付かないとでも思っているの? 不安な気持ちは 君の顔を見れば痛いほどわかるのに それを隠す君は本当に頑固 でも僕は そんな君が誰よりも大事で 可愛くて ずっと…一緒にいたいんだ …だから…
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