君と見た空

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『翠ちゃん』 泣きそうな顔 見られたくないのに 霧生さんの 私を呼ぶ声が優しくて 思わず顔を上げてしまう 目を閉じたら 涙が溢れてしまうから 必死で堪えて …堪えたのに 『…愛してるよ』 『……っ…』 そんな事…っ… 涙でぼやけたままの彼の顔が…どんどん見えなくなってくる 彼は私の手を取って 指先に軽くキスを落とすと 手に握っていた物を 私の薬指に…嵌めた …こ…れ…って… 『…っ…霧生さん…っ』 なん…て 言ったらいいのか… わからない あまりにも突然すぎて だって 私の左手の薬指に光るそれは 綺麗な石がついた…リング 『…意味…わかるよね?』 …わからないはずない 女の子なら誰でも憧れる 夢の…リング でも…っ… 『どうして…っ? こんな事してしまったら 霧生さん… 新し…い恋愛 できないじゃ…ないですか…っ…』 『新しい恋愛なんて必要ないでしょ』 『…っ…でも…っ』 私にもしもの事があったら… このリングは 彼の人生を縛り付ける事になってしまうのに 『…ねぇ…翠? “最愛の恋人が病気になりました" そんな事で君を忘れられると思う? あいにく… そんな半端な愛なんて 持ち合わせていないんだけど』 なんて…口角を上げて ほらこの笑顔 私は昔から… 彼のこの顔が大好きだった 意地悪に見えて 本当は…優しい所も 『僕は一生かけてただ一人 …君だけを愛する 今、君に ここで…誓うよ』 彼は薬指のリングに 唇を充てて それは… 甘い甘い夢物語のようで ただ…嬉しくて 堪えていた涙が …止まらない 『…ちゃんとしたプロポーズの言葉は……』 ちゃんとしたプロポーズ… 『オペが終わったら 言うから 例え… オペ中の夢の中でも 絶対…負けないって 君が思えば 必ずオペは成功する 僕にプロポーズの言葉 …言わせてよ』 少しだけ微笑んだ彼の瞳の奥は 限り無く優しくて 彼の言葉に 覚悟を決めたはずの私の心は 意図も簡単に…崩れてしまう もし…ほんとに願いが叶うなら… 『…わかりました 必ず…っ… 生きて帰ってきます』 この澄んだ真っ青な空は 私達の誓いを きっと…幸せへと導いてくれる そんな気がしたの 私はこの空を… 何があっても一生 …忘れない
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