君と見た空

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━トントン… 『翠ちゃん…入るよ』 午前中 オペ前の翠ちゃんの病室 ドアを開けると 彼女は振り返って 嬉しそうに声を上げた 『霧生さん…っ…』 病室にいたご両親も 穏やかな顔で笑っている 『今日は宜しくお願いします』 『はい、こちらこそ宜しくお願いします …翠ちゃん 具合はどう? どこか気になる所…ない?』 ベットの横に腰をかけて 手首に指を充て脈を測りながら 顔色を確認 調子はいいみたいだね でも 君は口を尖らせて 『具合はいいんですけど… 何にも食べちゃいけないから お腹空いちゃいました』 『…それは仕方ないよ オペの前は絶食 君もわかってるでしょ?』 『そうですけど…』 こんな時にまで 可愛い事を口にするから 僕まで笑顔になってしまう 『オペが終わったら ステーキ食べに行くんでしょ?』 『はいっ… じ、じゃあ… あのワインも…つけてくれます?』 『もちろんだよ 特別な日…だからね』 『嬉しい…っ…』 そんな会話をしている僕達を見ながら ご両親がそっと部屋から出ていった 『あと…二時間程したら 遠藤くんと一緒に迎えに来るから その時 麻酔するからね』 『…わかりました お願いします』 翠ちゃんの薬指に光る昨日贈ったリング 僕の視線に気付いた君が 手を広げて 窓から見える空に翳した 『…これはお守りです』 恥ずかしそうに微笑む彼女からは 昨日までの不安な顔は消えていた そんな君を どうしても…今 抱き締めたくて そう思った時には 我慢なんてできなくて 僕の腕は 君の華奢な身体を …包んでいた ゆっくり僕の背中に回された 翠ちゃんの腕 僕達の気持ちが 決して離れることがないように そんな想いを…込めたんだ
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