君と見た空

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………? 医局で帰り支度をしていたら ふと外に違和感を覚えて 窓から外を見ると チラチラと雪が降っていた あー… 傘持ってこなかったな… まぁ…このくらいの雪なら傘なくても大丈夫だけど 店までタクシーで行けばいいことだし 時計の針は 6時50分を指している そろそろ翠ちゃん来るかな 雪が舞い落ちる窓の外を眺めながら 帰宅する職員の中に 翠ちゃんを探して お洒落して来いなんて言ったから 困ってるかもね 困ってる翠ちゃんが見たくて 思わず口から出た冗談のつもりだったんだけど 言ってみてから それも楽しみかも なんて “霧生さん意地悪”って 拗ねたように口を尖らせる翠ちゃんが目に浮かぶ さて… 僕も用意して行ってみようかな 椅子に掛けたコートを羽織って 鞄を手に医局を後にした …さむっ… 玄関から外に出たと同時に 身体を刺すような寒さで 一瞬身が震えた 街灯が照らす雪は ゆっくり落ちてきて 伸ばした手に落ちた雪も 呆気なく溶けてしまう 人の命も同じで 午後から急患で入った交通事故の患者さん 病院に着いた時には 骨盤骨折による出血多量で手遅れだった 朝にはきっと 元気で家を出てきたのに 一瞬で命を失ってしまった この仕事をしていると 人の死に慣れてしまう 結局人はいつか死を迎える それが早いか遅いか… それだけのこと 医学は発達しているけれど その都度全力を尽くしているけれど 医者は神には…なれないんだ そんな風に思うようになってしまった事だけが 医者になって ただ一つ 僕が後悔してる...事 僕に いつか 愛する人ができた時 同じような状況になっても そんな風に 思ってしまうのかな
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