君と見た空

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『…こんばんは、山谷さん』 『おっ…純か!! 今日は早いな』 店の暖簾を潜ると 温かい店内にいい香りが漂って 山谷さんの笑顔に迎えられると ほっ…とする カウンターのいつもの席に座って一息 『山谷さん 熱燗もらえます?』 『ん…?熱燗か? 珍しいな…純が始めから熱燗なんて』 『…うん…今日はチビチビいきたい気分なんですよね』 『何かあったのか? ツチも心配してたぞ?』 『…土谷さん…?』 なんで? 『さっき店に電話がきて “今日純が顔出すかもしれねぇが 疲れてるみてぇだから 体力つくもん食って 早目に帰らせてくれ” ってな』 『…土谷さんは過保護過ぎなんですよ』 『ははは…っ ツチは純の保護者みたいなものだな』 山谷さんの笑い声に 少しづつ気分も晴れてきた 熱燗とモツ煮、揚げ出し豆腐が トントン…と用意されると 自然に顔が綻んで これ食べたら今夜は帰って休もうかな… 別に土谷さんに言われたからじゃないけど ━ガラッ…━ 『…こんばんは…』 ……… …背中から …聞き覚えのある…声 『いらっしゃい翠君 君も早かったんだな ちょうど純もいたぞ?』 …ちょうど…ね タイミング悪すぎじゃない? 今日は朝から仕事以外の会話…していないのに 『どうしたんだ…? 早く座ったらどうだ』 『……あ… …は…い』 わざわざ僕の隣におしぼりを出してくれる山谷さん ……参ったなぁ 『翠君、先日は大丈夫だったかな? 多少飲み過ぎたみたいだったが…』 『………!!』 『………!!』 山谷さんの悪意のない 地雷が お互いを凍りつかせる 『…そう…ですね 大丈夫でした 帰ったら酔いが覚めてましたし…』 『それならよかった あの日は純は学会だったらしいが… 一日中難しい話聞いて疲れただろ』 『…疲れましたね ホテルに着いたらグッタリでしたから』 ━ガタッ…━ ……………? 『すみませんっ… …私…っ… 用事思い出したので 今日は帰りますね!!』 ……はっ? 『…ちょ…っ… 待ちなよ!!』 突然立ち上がって コートを掴む翠ちゃんの腕を引き寄せると 振り返った君の顔は 今にも泣き出しそうで 『…すみません…山谷さん 僕…今日この子送っていきますね』 カウンターにお金を置いてそのまま 翠ちゃんを連れて店を出た
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