君と見た空

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『捕まえてきたぜ?』 鮎川さんが医局のドアを開けて 中に声を掛けながら入って行くと ふわ…っと 珈琲の香ばしい香りが 鼻を擽る 誰かいるのかな… 鮎川さんの脇から そっと中を覗いてみたりして すると 『…久しぶり、翠ちゃん』 ……え…? 目の前の男性は 椅子に座ったまま クルリと振り返ると ニッコリ笑って 笑…って… 『霧生…さん…っっ…?!』 『待ってたよ?』 どうして…っ… 霧生さんは…確か 大学卒業して医師免許取って その後…国際医師免許取るからって アメリカに行った 暫く会えなくなるね…って 泣きながら空港で見送ったのは何年前だったかな 霧生さんは 鮎川さんより二つ下で 私より一つ上 鮎川さんと一緒で サークル内外でも可愛がって貰った先輩の一人 私は霧生さんの 誰よりも綺麗に弓を引く姿に見惚れすぎて 先輩に怒られた事もしょっちゅうだった 大学でも人気があった先輩は いつもたくさんの女の子に囲まれていたっけ 先輩達が卒業してから 試験や研修で お互いどんどん忙しくなってしまって 連絡取ることも少なくなって そのうち お互い何をしているのかもわからなくなっていた たまに ふ…と思い出す事もあったけど 結局そのまま… いつかそのうち そんな事思っているうちに いつの間にか 数年の月日が流れていたなんて 今の今まで気付かなかった
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