君と見た空

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『…霧生先生…?』 ………? 『翠ちゃん…』 『…どうしたんですか? こんな所にいたら… 風邪引いちゃいますよ? 只でさえお疲れなのに…』 確かに 真冬の屋上は風が突き刺すように冷たい でも 『…疲れたから…かな』 『……?』 長いオペが終わって 手術は成功した 身体中を縛り付けていた極度の緊張から解放されて 興奮状態にも似た精神を落ち着かせる為 誰もいない夜の屋上は 最適の空間だった 『…私…お邪魔しちゃいましたかね?』 何故か遠慮がちに聞いてくる声は だんだん小さくなって 『…なんで? そんな事ないけど?』 『…いや…でも… 先生…ほんとは一人でいたかったんじゃないかな…って なんとなく…そんな気がして』 『…うーん… まぁ…確かに ここに来れば誰にも会わないって思って来たんだけど… でも翠ちゃんなら 別に邪魔じゃないし』 『そう…ですか?』 『それより 君こそ何でこんな所に来たのさ』 僕の言葉で 何かを思い出したのか 髪をクシャッと掴んだ これ…焦った時の君の癖 『そうでした!! 土谷先生が霧生先生を探して来いって…っ なんでも… 例の患者さんについての確認をもう一度するとか』 『えー… 明日でいいじゃない さっき十分細かく話合ったし』 『ダメです 私も呼ばれてますから 行きますよ!!』 僕の腕をグイグイ引っ張って どんどん先を歩く翠ちゃんが 土谷さんに忠実なのが… 気に入らない 『…ちょ…っ… 待ってって…っ!!』 もう……っ!!! 『……えっ…あ…』 『………………』 『…霧生…さん…っ』 『…なにかな…?』 『……う…で… 離して…貰え…ませんか……』 『…なんで?』 『…なんで…って …なんで…?』 腕の中にすっぽり納まった翠ちゃんは 真っ赤な顔で 目を逸らして この状況が理解できないのか 黙り込んでしまった 咄嗟に抱き締めてしまった君を 離す事が出来なくて 疲れてたから…なんて 理由にならない 『…寒かったから 翠ちゃんで暖まってみただけ』 前に廻した僕の腕を キュッ…と掴んで 俯いた君が …呟いた 『…勘違い…しちゃったらどうするんですか…』
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