君と見た空

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暫くすると 部屋に香ばしい香りが漂ってきた 『はい…先生どうぞ』 カタン… 翠ちゃんの淹れてくれる珈琲は好き 温度とか濃さとか ちょうどいい これが昔馴染みってやつなのかも 『…ありがと ……………… …あれ…? これ…いつもと違う珈琲? 香りが違う…』 もう一度 香りを確かめてみたけど やっぱり違う 隣で僕を伺う翠ちゃんを見上げると 嬉しそうに笑った 『わぁ…さすが霧生先生 この違いがわかるなんて!! やっぱり先生に出してよかった♪』 『どうしたの?この珈琲』 『この珈琲 実は頂き物なんですけど 凄い高価な珈琲だって聞いて… 味に疎い私なんかが飲むより 霧生先生に飲んで貰った方が珈琲も喜ぶかなって』 ふふふ…って微笑みながら満足そうだし …珈琲が喜ぶって… ほんと可笑しな事を言うよね君は 『せっかくの珈琲なのに 君は飲まなくていいの?』 『いいんです 霧生先生の為に持ってきたんですから 先生、珈琲大好きでしょ? 朝から何杯も飲んでるくらい』 『それはそうだけど…』 まあ…翠ちゃんが それでいいなら 遠慮なく美味しく戴くのもいいのかもしれない 一口飲んでみると さすが 味がしっかりしていて 変な苦味がない 『うん…美味しい』 よかったぁ… なんて 無邪気に喜ぶ翠ちゃんが 何かを思い出したように 声を上げた 『そういえば 昔…先生の家で飲んだ 目覚めの珈琲 凄く美味しかったの覚えてますよ、私』 『…ああ…あれね あれも確か結構値が張った珈琲だったかも 朝は大体あれを飲んでたからね』 『飲み過ぎて終電逃して… そうすると決まって先生の家に転がり込んで』 『そうそう …で、必ず君が先に潰れて寝ちゃうんだよね』 『…だって霧生先生 全然潰れてくれないし 気付いたら朝…みたいな 何度もありましたよね』 クスクスと 思い出し笑いをしながら 昔話に花が咲く 学生時代はそんなこと しょっちゅうだったから 『あれだけしょっちゅうお邪魔してたのに 霧生先生 嫌な顔したことなかったから助かりました あ…でもっ!! 私…全く女としての魅力なかったんですねぇ 霧生先生と何にも起きなかったし』 …………… ケラケラ笑う君は あまりにも無邪気で 『…ほんとに何もなかった…って 思ってる…?』
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