君と見た空

『捕まえてきたぜ』

休憩中の医局に
声を弾ませた鮎さんが入ってきた

…やっときたね

さっき
ここの窓から見えた待ち人

玄関の前まで来て
ずっと動かないでいるから

鮎さんに

『捕獲してきたら？』

って言ったんだけど

久しぶりに会った君は
幼さが消えていて

綺麗な
大人の女になっていた

空港で見送られてから
何年経ったかな

あの時
泣きながら

『行っちゃ嫌ですっ』

って僕にすがる君が
可愛かったっけ

僕が唯一
可愛がった女の子だったから

君がちゃんと看護師になっていてくれて

安心したよ

いつか一緒に働きたいって思ってたからね

それなのに

嫌だ嫌だと
この話を全力で拒否するなんて

相変わらず頑固だね…君は

『ぜーーーったい無理ですから!!』

息を荒げながら
不満をぶちまけるように

不安…からか
目には涙さえ浮かべて

今にも帰り出してしまいそうな
そんな雰囲気が漂っている

そんな中
鮎さんが
僕に目配せをしてきた

何とかしろ…って事ね

拗ねた翠ちゃんを
宥めるのは
昔から僕の役目

さて…

まずは
この頑固なわからず屋を
説得しないと

翠ちゃんには頭ごなしに言っても無駄

変に頭の回転がいいから
屁理屈で切り返してくる

僕もその辺は負けない自信はあるけど

でも

僕は翠ちゃんの頭を撫でながら

言い聞かせるように

このやり方が
翠には一番効果があるんだ