君と見た空

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『おはようございます 霧生先生』 『…おはよ 翠ちゃん』 いつも通り 診察室で準備をして いつも通りの挨拶 何も変わっていないのに お互いの距離は 確実に離れているのがわかる 『今日は患者さん少ないんだね』 準備されたカルテを見ながら 珈琲に口を付ける霧生先生 『そうですね いつもより少ないかも… でも 明日はかなり多いですから覚悟してくださいね?』 『うわぁ… 僕明日は 日勤から通しの夜勤なんだよね… 身体持つかなぁ』 『…じゃあ今夜は 早目に帰って寝てくださいね 山谷さんのお店で長居しないように…』 『…………』 私の言葉に霧生先生が ふと…目を逸らす …………あ… 私…余計な事…言った 『…すいません…っ 余計な事でしたね…っ…』 多分…今夜は 彼女と約束が…あるんだ 『…翠ちゃんは?』 『…え…』 『…翠ちゃんは 佐々木と… どうなったの?』 座ったまま 横に立つ私を見上げる瞳に 言葉が…出ない 『…言いたくないなら 言わなくてもいいけど もう… 僕が関与する事でもないし…ね』 これは 霧生先生からの …決別宣言… 心臓がドクドク鳴り響いて 息が…苦しい こんなに動揺するなんて …思わなかった 私の中の霧生さんが どれだけ大きな存在だったのか 今更…気付いても …遅い 時間は…戻ってくれないから 『…お付き合いする事に …なりまし…た』 一瞬… 瞳を見開いて 驚いた顔を見せた先生が クルリ…と背を向けた 『…そっか…よかったね』 背中越しに聞こえた声からは 何の感情も読み取れなかった
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